世界は一つ、鏡は一つ

女王様の鏡には今日も美しい女王様
でも今朝は少し歪んでいるような気がする
どうしたのかしら

鏡が歪んでいるのかしら
顔が歪んでいるのかしら

その日哲学者も悩んでいた
世界は一つだけ
意識も一つだけ
歪みがあるとしてどのようにして知ることができるだろう

自分の意識がいくつもあれば解決可能である
しかしそれは他人の意識であって、他人の意識と自分の意識がどのようにして通じ合うか、それはまたそれで解きがたい大きな問題だった

世界がいくつもあれば比較検討して解決可能である
しかし当然世界は一つしかない
一つしかないものを世界と呼んでいるのだ

王女が鏡をのぞいたき、歪んでいるのではないかと疑問に思ったとして
鏡がたくさんあって、どの鏡を使っても歪んでいるのなら、それは顔の問題である。
顔がたくさんあって、どの顔を写しても歪んでいるのなら、それは鏡の問題である。

しかし世界は一つだけである。
意識は一つだけである。
他人の意識は世界の風景の一つに過ぎない。
そして哲学者はあわてるのだが、世界に一つしかないこの意識も、世界の一部でしかないのだった。
ここに自己言及も無限背進も始まってしまいそうだった。
哲学者がはっきりと自分のスランプを自覚したのはそのころだった。

このようにして女王と哲学者のうつ状態は始まったのだ。