動物セラピー アニマル・アシステッド・セラピー(AAT、動物介在療法)

動物セラピー、善意頼み 「経費の大半持ち出し」 医療福祉との連携カギ
2010年05月01日 朝日新聞 朝刊

 動物に触れて、障害者らが癒やされたり子どもが命の大切さを学んだりするアニマルセラピー=キーワード=の活動が岐路にさしかかっている。国内の取り組みはボランティア頼みなのが実態。このため、セラピーの団体がボランティアにアンケートをして対策を探り始めた。専門家は「若者が本格的に取り組もうとしても経済的な負担から二の足を踏んでしまう」と指摘する。(新井正之)

 3月下旬、神戸市の「多機能型障がい者デイセンターひょうご」に2匹の犬がやって来た。雑種の「ゆめ」と小型犬の「メイ」。障害者ら約10人は「触ってみますか」と誘われて、恐る恐る手を伸ばす。シャンプーしたての毛並みをなでると、満面の笑みをみせた。支援主任の宮本裕佳子さんは「犬が来る日を楽しみにしている障害者は多い」と話す。
 2匹の飼い主は、熊井恵子さん(54)と与茂田千鶴子さん(63)。2人とも活動歴は10年を超える。月に訪問するのは2施設ほどで1回約45分。熊井さんは「時間が長いと犬にストレスがかかり、回数が増えると私たちの負担が重くなる」と話す。無料奉仕のうえ、ガソリン代や駐車料金は自己負担だ。
 2人は、日本動物病院福祉協会(事務局・東京都)に所属するボランティア。協会は1987年の設立以来、アニマルセラピー活動を「コンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム(CAPP)」と呼び、全国延べ8万4千人以上のボランティアが1万回を超す訪問活動を重ねてきた。
 昨年12月、協会がボランティアにアンケートしたところ、施設が遠かったり経費がかさんだりすることに悩んでいた。「ボランティアは時間と労力を費やすだけでなく、お金まで持ち出しているのが現状」と、協会の戸塚裕久CAPP委員長。参加する犬は厳しい健康チェックやしつけが必要で、協会は健康診断などの費用を支出し、ボランティアの負担を軽くしようと努めている。
 NPO法人「CANBE(キャンビイ)」(愛知県東郷町)は、小学校や幼稚園などで犬との接し方などを通じて命の大切さを学ぶイベントを開き、学校側から「教師の参考になる」と好評だ。謝礼を受けるケースもあるが、経費のほとんどは運営する動物病院の手弁当だ。「資金を確保する方法を他の団体と一緒に考えたい」と獣医師の吉田尚子さん。カナダで動物福祉教育を学んだ経験を活動に生かしたいが、「動物福祉の考えが浸透している欧米と同じような実践は難しい。医療機関との共同研究や自治体の助成などが必要」と感じている。
 こうした課題の解決策を探る研究も始まりつつある。麻布大学(神奈川県相模原市)に事務局を置く「ヒトと動物の関係に関する教育研究センター」は3月、アニマルセラピーの研究発表会を開いた。コーディネーターを務めた同大共同研究員の伊澤都さんは「犬と触れあい喜んでいる子どもらを見ると、手弁当で訪問したい気持ちになる。しかし、活動への対価がなければ質の向上につながらない」とジレンマを口にする。
 「若者が本格的にアニマルセラピーを学んでも、現状の活動では生活費が稼げない」と同大獣医学部の太田光明教授は嘆く。将来、活動が広がるかどうかのカギは治療方法の確立にあるとみる。例えば、うつ病患者が犬の散歩や乗馬をすることは薬と同様の効果があるといわれている。太田教授は「医療や福祉の関係者と研究を進めていくのが大切。効果が認められて実践の場が広がっていけば、高齢者らにかかる医療費を減らす可能性もある」と言う。
キーワード

<アニマルセラピー> 犬や馬、イルカなどの動物を使って、障害者やお年寄りらの身体的、精神面の健康を向上させる活動。医師が参加した治療と呼べるアニマル・アシステッド・セラピー(AAT、動物介在療法)、動物との触れあいを重視するアニマル・アシステッド・アクティビティー(AAA、動物介在活動)、子どもたちへの教育を重視したアニマル・アシステッド・エデュケーション(AAE、動物介在教育)に区別される。